第8回「いじめ・自殺防止作文・ポスター・標語・ゆるキャラ・楽曲」コンテスト
 作文部門・優秀賞受賞作品


   『 弱い気持ちと強い心』
        


                                         松山 命(みこと) 

 「二人が自殺したら、それは私に対するいじめだから。」

 いじめを原因とする自殺のニュースを目にするたびに、母が兄と私に必ず言う言葉です。いつも、

 「すると思う?するわけないわ。」と笑って返していました。

 今年、次々に流れてくる俳優さんの自殺のニュース。そのときも母は、あの言葉を私たちに投げかけてきました。今までニュースで見てきた、顔も名前も知らない人たちと違い、映画やテレビで見ていた俳優さんの死には一瞬驚きましたが、それと同時に怒りもわいてきました。病気になったわけでも、事故にあったわけでもない、自分で選ぶ死、そんなことは絶対にダメだと強く思っていました。何故死を選んだのか、何かきっかけがあったのか、様々な情報が流れるたびに、

 「そんなの本人にしかわかるわけない。」

と、私は知りたいとも、理解したいとも思いませんでした。

 小学生の頃から、学校でつらいことがあったときは、自分の限界がきたらいつでも逃げていいと何度も言われています。自分の限界までやってみる、それでも辛くて逃げるのは間違いではないからと。

 今まで、自分の体の限界は何度かありました。病院へ行き薬を飲んで寝る、それで治るものばかり。しかし、コロナでたくさんの我慢が増えていく中、自分の限界がわからなくなっていきました。体調負傷が続き、病院で検査をしても体に異常はありません。それでも長引く症状に、何度目かの受診で、精神的なものかもしれない、ストレスに感じていることはないかと言われた瞬間、母と顔を見合わせ、

 「え〜そんなことある?」

と笑ってしまいました。自分は強いと思っていたからです。それは母も同じだったと思います。自分のこと、周りで起きたことを思い返すことが増えました。自分で気づかない何かあるのか。コロナでたくさんの我慢をすることになりました。長い休校、部活の試合が次々と中止になり、当たり前に人と会ったり、出かけることも出来ない、色々なことが思い通りにいかない日が続いています。学校再開になっても、我慢と不安が減ることはありませんでした。やっと学校再開になったあの日、あんなに楽しみにしていた日、

 「最低最悪の日だった。」

と言いながら、家のドアを開けました。授業中、クラスメイトの助けになると思っての私の発言を、この日初めて会った先生から

 「嘘を教えない。平気で嘘をつく人なんだ。」

と言われてしまいました。私は、

 「違います。嘘を教えたわけではありません」

と返すのが精一杯でした。他のクラスの人たちから、

 「なんで嘘ついた?」

 「嘘ついたちゃろ?」

と何度も聞かれ、はじめは何のことだかさっぱりわかりませんでしたが、それは、他のクラスでも、私が平気で嘘をつく人だと、授業中に先生が話題にしていたからだと後で知りました。それからの私は、モヤモヤしながらも、いつもの元気な自分でいようと、変わらず笑っていたと思います。

 体調が悪い日が続くなと思い始めた頃から続く俳優さんの死が、自分の弱さを考えるきっかけになったのかもしれません。「最低最悪の日」から続く先生からの理解できない言動、体調不良、睡眠障害。何かが変わるかもしれないと心療内科を受診することにしました。少し楽になり、薬をお守り代わりに登校し、少しずつ、いつもの自分に戻っていけると思っていました。

 いつもの友達と、いつもの時間にいつもの道を通り学校へ。しかし、その日は何かが違いました。教室についてすぐに母に連絡をとっていました。やっぱりだめだ、と。理由は私にもわかりませんでした。迎えの車の中で、

 「学校が見えた瞬間、学校が怖い、先生が怖いて思ったとよね。何でかは自分でもわからんけど」

と笑いながら母に話していると、

 「泣いていいよ、つら〜いて叫びな。」

と言いながら、車の窓を開け外に向かって、

 「つら〜い、腹立つ〜」

と母が叫んでいました。そのときはじめて、自分が泣いていることに気づきました。笑顔で話しながら泣いていた、頑張ってつくる笑顔には限界があるのだと。自分は強い、いつも元気だ、傷つくことを認めたくない。でも人は、つらいことも、傷つくこともたくさんあり、自分自身に弱い部分もあると認めることが大切なんだと。

 自分で死を選んだ人たち、自分はつらいと認めて逃げてほしかった、誰でも弱い部分があると立ち止まってほしかった。何より、自分を傷つける言葉を受け入れてほしくなかったと強く言いたいです。

 今も私の修行の日は続いています。つら〜いと叫びたくなるときもあります。それでも、私は強い自分でありたい。

 自分には、弱い気持ちと強い心があると認めながら、自分で自分を大切に成長していこうと思います。